素直になるのが、怖かった。 episode5:十人十色の想い その日の夜、コトブキのメンテナンスをしながらセイは考え込んでいた。 「人の、苦しみ、悲しみ、痛み・・・コトブキに以前なにがあってあそこに捨てられていたのかわからない けど、いい思いはしていなかったはず・・・覚えていないことが幸いだわ・・・。でもその苦しみが、もし また繰り返されるのなら・・・私のしたことって・・・」 思いは途切れず、気付けばまた朝が来ていた。ベッドの中でもセイは延々と考え込んでいた。 「「お・は・よーーー!!セイ!見たぞー!!昨日のアレはなによー!??」」 元気なハモリ声がセイの耳に飛び込んできた。 「あ・・・おはよ。ユキ、サチ」 「「とぼけないのー!昨日のアレ!ぺっぺと二人で仲良く帰ってたじゃないの!アレはなあに?」」 一呼吸もずれることなく二人で言ってのけた。セイは多少気おされながらも答えた。 「違う違う。昨日は偶然に栄一郎さんと校門であって帰っただけ。何もないわよ」 「偶然、ね」 「どーだか」 双子はやれやれと肩をすくめた。 「え?」 「セイったら鈍感ー。気付いてないの?あのねぇ、ぺっぺはセイのことが・・・」 「?」 「わわ!ユキったら!」 慌てて言いかかったユキの口をサチが塞いだ。 「えへ?気にしないで、セイ!」 「・・・うん?」 三人はそのまま校門へと向かった。 校門をくぐると、中は何やら騒ぎたっていた。エントランスの中央に何やら大きな人だかりができていた 。 「何だろう・・・?何かあったのかな?」 「行ってみよ!」 ユキは二人の手を引き人だかりの方へと駆け寄った。 「てめぇ!もういっぺん言ってみろ!!」 「はっ!何度だっていってやるよ・・・『お前はロボットをひがんで羨むことしかできない、ただの根性無し の負け犬だ』ってな!」 「貴様・・・!」 騒ぎの中心で男たちがまさにつかみ合おうとしていた。周囲からは女子の悲鳴やら、「もっとやれ」「い いぞ」などと野次などが叫ばれる。男の周りには他にも目をぎらぎらとさせた奴が掴みかかろうと身構えて いた。 しかし男はひらりと身をかわし、構えている一人に蹴りをかまし、更に横にいる奴を流れで投げ飛ばした 。その鮮やかな動きに周囲ははっと息を呑んだ。 「ユキ!!」 「あ、ヤスヒコ・・・」 呆然と見入っていた三人の前に、人ごみを掻き分けヤスヒコと呼ばれた男が駆け寄ってきた。 「あ!」 サチが思い出したようにセイに向き直った。 「セイ、この人がユキの彼氏であたしたちの幼馴染のヤスヒコ。初対面だよね?」 咄嗟にサチはヤスヒコを紹介した。 「どもども、おーきに」 「ヤスヒコ、これ一体何の騒ぎなの?」 「ああ、俺もようわからんのやけどな、あれや。転校生からまれてたのんを、あいつが止めにはいってん。 なんやったっけな、転校生・・・えーと」 「コトブキ!」 セイは輪の中心を見て叫んだ。 「そや、それや。コトブキくんがなー・・・」 セイはヤスヒコの話も半ばに、すでに輪の端っこに放置されたままのコトブキへ駆け寄った。 「コトブキ・・・!」 その瞬間、辺りがさらにざわめいた。 「セイさん・・・!」 「黒猫のおセイだ・・」 「ああ、あのロボットの飼い主の・・・」 多々嫌味な言葉も聞こえてきた。セイは耳にも入らない様子でコトブキを見つめた。 「コトブキ、怪我はっ!?」 その隙に、コトブキそっちのけの男たちは殴りあいに発展しようとしていた。 「やめて!」 威勢のいい声があたりに響いた。 「サチ!」 ユキが悲鳴のような声をあげた。サチはいつの間にかふたりの男の間に割って入り、拳を止めようとしてい た。 「ここは学校よ。けんかはやめて・・・」 「・・・」 サチと男はしばらく見つめあった。そして男はコトブキを一瞥した後振り向き、人ごみの中に消えていった 。 「くっそ・・・覚えていろよ・・・佐々部アキ・・・!」 先ほどの男にやられたコトブキにからんだ男たちが悔しそうにつぶやいた。 「・・・アキ・・・」 サチもセイも、その場にいる全員がアキという男の背中を見送っていた。 NEXT |