でも本当は、知ってほしかった。

episode:6 さよなら、その言葉が持つ意味は・・・?

「コトブキ・・・一体なんでこんなことに・・・?」
セイは傷ついたコトブキを手当てするために、授業を休み保健室にいた。コトブキは外見には見えづらいズ
ボンのしたの足にに強い蹴りをいれられ、破損していた。
「人工皮膚が破損してる・・・血もでてる・・・痛みだってあるのに・・・」
セイは痛々しそうに怪我の部分を見つめた。
「コトブキ。ロボットが痛みを感じるようになってるのは、人の痛みをわかるためなのよ・・・。なのに・
・・人は少しもあなたたちの痛みをわかってあげていないわね・・・ごめんなさい・・・」
セイは目を伏せた。
「人工皮膚のせいで、かすかに血を流すことだってできるし、痛みだって感じる。怪我だってする。自然治
癒力がないからメンテナンスでしか治せないけど・・・でも、同じよ・・・ねえ?そうよね、コトブキ・・
・」
「ハイ・・・」
「痛かったら、涙だって出るようにつくられて・・・」
つくられている、その言葉を言ったことをセイは後悔した。同じよ、と言った自分のその口からつくられた
と言った。矛盾している、セイはそう思わざるを得なかった。こんな言葉をコトブキはどう思ったのか・・
・。
「ハイ」
コトブキはただ返事をするだけだった。
「・・・どうしてやりかえさなかったの?あなたは強いはずよ・・・」
「ハイ」
「痛みが、怖かったの?」
コトブキの『痛み』、セイにはわからないけれど、あんなことをされて辛いくないはずがない。コトブキは
、それでも相手に痛みを感じさせるのが嫌がっているように見えた。
「・・・弱い男は嫌いよ・・。命令よ。・・・もう怪我なんか、しないで。自分自身も、守って・・・」
セイはその日、寂しさをひとつ覚えた。

「さ!今日は少し安静にしていなさい。また壊れられたらたまらないわ。私は授業に戻るけれど・・・」
「ハイ・・・」
セイは保健室を後にしようとした。

ガラッ

 途端に後ろから声がした。
「ねえ」
ふわっと窓から風が入る。
「え?」
セイは考え事に気をとられ、声をかけられるまで気がつかなかった。声に反応してぱっと振り向いた。

 一人の男が白いカーテンの向こう、ベッドの上に腰掛けてセイを見つめていた。
「悪いけど、包帯どこにあるか知んない?」
セイの目に、男の右腕から滴る赤いしずくが映った。
「っ・・・血!」
セイは慌てて駆け寄った。白いシーツには少し血が滲んでいる。
「やだ・・・どうしてはやく手当てしないのよ・・・!」
「先生いないし、あんた取り込み中みたいだったし」
「みせて、やってあげる」
セイは放っておけずに男の手を取った。

 少し茶色を帯びた瞳、ハスキーで響くような声、肩のところにかかるような瞳と同じ色をした髪。男の姿
の何もかもが、なぜかセイの目を引き付ける。

「おいアンタ・・・あいつはロボットか?」
「・・・コトブキのこと?ええ、そうね・・・私が、つくったの」
セイはそういった。自分がつくったといっても嘘ではないが、その前に何者かがつくったというのが真実で
あったが、そのことには触れなかった。セイはちらっとコトブキを見つめため息をついた。
「安心しな。つくったなんて言っても、ロボットは傷つきやしないよ」
「え・・・」
なぜ見抜かれたのか、セイは一瞬心臓が飛び跳ねるのを感じた。
「ロボットが傷つくのは・・・主人の元から離れる・・・ただそのときだけ」
「・・・やっぱり、傷つくんじゃない・・・」
「あんたがそんな顔で悩むな。少なくとも、主人にそうやって心配してもらえるアイツは幸せだ」
「そうかしら・・・」
セイはくるくると包帯を巻く手を止めた。
「ロボットを気にかけることなんて所詮、無駄だ。ただの道具なんだから」
「!そんな・・・」
不意になったチャイムがセイの言葉を遮った。
「・・・予鈴だ。あんた教室行くんだろ。俺、帰るから」
男は自分の腕に置かれたままのセイの手をどかそうとした。
「あなた・・・冷たいこと言うけど、優しいんだね」
「は?」
「大丈夫だって、ことだよね」
「・・・どうかな」
セイは包帯の端を止めて手当てを終了した。
「はい。おわり」
「・・・どーもな」
ぶっきらぼうな言い方をして男は立ち上がり出口へ向かった。
「あ!待って・・・名前・・・私は2−Cの・・・」
「胡蝶蘭、セイだろ」
「え?」
「俺はシゲ。2−C。あんたのクラスメイトだよ」
「え」
「最も、クラスなんかろくに行った事ねえけどな」
「でも!・・・明日は、来るよね?」
「どーだか」
「シゲ・・・くん」
「シゲでいいよ。じゃーな、セイ」
セイは突然呼び捨てにされた自分の名前にどうしようもない何かを感じた。痛いような、切ないような感情
。
去っていく男の背中を見送りながら、シゲの声を思い返していた。
 セイは胸の前でそっと彼に触れていた手を握り締めた。

「次はあの男をたぶらかすの?」
突然響いた高い声にセイは我を取り戻した。
「・・・ショウコさん・・・」
振り返ったその先には、保健室のドアにもたれかかるショウコの姿があった。
「チーダの次はアイツ?いいご身分ね」
「!違うわ・・・チーダもあの人もたぶらかすだなんて・・・それに」
「違わない」
ショウコはキッとセイを睨みつけた。
「自覚も無いの?最低ね!それとも、それも作戦かしらね」
「・・・」
セイはわけもわからず何も言い返せなかった。
「あなたみたいな人、大嫌い。あなたにはその出来損ないのロボットがお似合いよ!」
ショウコはそういうとセイに背を向けて走り去っていった。
「・・・」

「違うよ・・・ショウコさん・・・」
セイはぽつりとその背中に呟いた。

 ただ心にシゲの姿が浮かぶばかりだった。
 コトブキはそんなセイとシゲ、そしてショウコのやりとりを言葉も無くただ見つめていた。
「あのひと・・・」
コトブキもまた、シゲのことを考えた。

 運命というものが、動いていく。

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